2009年1月30日金曜日

THE LIVINGALL EUROPEAN CONFERENCE報告4

街並みが ケーキのように デコラティブ

 分析の話を聞く中で、コスト-ベネフィットの観点が目につきました。例えば、障害者対応施設であれば、施設設置費用(コスト)と新規顧客の獲得(ベネフィット)などです。
 もちろん、正義、公平、尊厳、権利といった価値観や「我々EU」という一体感は、プロジェクトの根底にあり強調されていました。しかし、その一方で、コストーベネフィット分析も行う姿勢からは、上述の価値観を共有できない人にも、結果としてプロジェクトの価値観に沿った行動をとってもらえるシステム作りを目指しているように感じました。
 相手を自分の土俵に引き込むのではなく、あくまで相手のロジックに沿って、自分たちの理想とする行動をとってもらう。この考え方は、建設的な同床異夢を生み出す際に役に立つなと感じました。

2009年1月29日木曜日

THE LIVINGALL EUROPEAN CONFERENCE報告3

あら素敵 覗いてみると 生鮮品(↑中央市場です)

 LivingAllプロジェクトでは、EU各国で共通の質問紙を用いて、disableな人を対象に大規模な調査をしていました。縦断的に同様の観測を行うことで、時間的にも空間的にも、比較可能なデータベースをつくることができです。質問紙の強みを生かした方法だと感じました。

 異なる文化を持つ人々に対して、共通項目を用いて調査をすると、知能指数の測定に関する議論のように、特定の文化に有利(or 不利)に働くような恒常的なバイアスを生むこともあります。その点について、概念定義や質問項目の練り上げ、翻訳と再翻訳による同質性の向上、大規模なサンプリング、インタビュー調査との相互検討など、時間をかけて質の良い質問紙調査を実施する努力が印象的でした。質問紙調査は実施すれば何らかの数値結果が出ます。しかし、練られていない項目で得られた数値は、意味がありません。意味のない数値が独り歩きすることへの恐れをもち、調査の質を常に向上しようとする姿勢は学ぶべきだと感じました。

 このように、大規模調査をすごいと思う一方で、同じ調査を日本(or アジア)でも実施し、他のアジア諸国やEU諸国と、意識調査の結果を比較することの意義は、今の私にはまだ見えていません。確かに平均値を比較すれば、上位国と下位国が出てきます。しかし、違う対象(=各国での実情)を、違う各国の国民が判断した結果の比較検討には、限界があるように思います。今回の報告では触れられなかった、優れた実践を選ぶ際の選考基準や、インタビューで得られたであろう満足/不満足の理由が知りたいです。またEUでの優れた実践が、日本でも良く機能するとは限りません。
 
 このプロジェクトの成果を、個々の研究者や実践者が自国に持ち帰り、どのように社会に還元していくのか。私自身が試されている気がします。

2009年1月28日水曜日

THE LIVINGALL EUROPEAN CONFERENCE報告2

このカオは ライオンなのか イヌなのか

 LivingAllプロジェクトでは、障害者や高齢者に焦点を当てています。そして「彼/彼女のために何が必要か」ではなく、「彼/彼女を含めた、できるだけ多くの人々のために何が必要か」を問います。この「市民の多様さ」と「障害者と健常者の関係性」への配慮は印象的でした。

 「科学技術への市民参加」と言ったとき、私の持つ市民像には偏りがあったように思います。障害、年齢、国籍、社会的立場、地域、関心、知識など、すべての属性を考慮できないにしても、700万人の障害者、2560万人の高齢者、215万人の外国人登録者を抱える日本に住むにしては、市民の多様性への配慮が不十分だったと思います。

 また関係性についても「障害者と健常者」「市民と専門家」など、AとBを対立する概念として捉え、その差異点に眼を向けて区別しがちでした。だから「障害者のための技術」という発想もあった気がします。しかし実際は、その両者には類似点も多くあります。その視点に立てば「障害者を含むできるだけ多くの人々のための技術」という発想となります。インクルージョン、ユニバーサルデザイン、メインストリーミングなど、この会議で強調されたコンセプトは、私に差異点と類似点を意識する際のバランスを取り戻してくれたように思います。

 同時に「健常者による障害者の保護」ではなく「価値観や視点の異なる他者との協働」という構図で、両者を捉えることも重要だと改めて感じました。どちらかを優先的に支援するのではなく、対等に参加できる共通基盤をつくるのです。では、対等とは、どのような状態なのでしょうか。悩みは深まるばかりです。

2009年1月27日火曜日

THE LIVINGALL EUROPEAN CONFERENCE報告1

街の中 そこにあるのは 闘牛場

2009115日・16日に、スペインのバレンシア市のBotanic Gardenで、THE LIVINGALL EUROPEAN CONFERENCEが開催されました。

Conference HP: http://www.livingall.eu/conferences.php

この会議は、Free Movement and Equal Opportunitites for All (LivingAll)プロジェクトの一環です。LivingAllの目的は、「障害(disabilities)を持つ人々のFree Movementと、グローバルなヨーロッパの労働市場へのアクセシビリティを向上させること」、「EU諸国の政策に対して、改良のためのガイドラインを提言すること」です。

Project HP: http://www.livingall.eu/index.php

 今回の会議では、EU諸国共通で大規模になされた質問紙調査やインタビュー、およびインターネットや文献調査の結果が報告されました。そして、EU諸国の障害者を取り巻く環境の現状や優れた実践の紹介、それらをもとにした提言がなされました。障害者を含めた多様な市民すべてに対し、科学技術はどのような貢献ができるのか。EU諸国における最新の研究成果と優れた実践を知り、研究や実践の背景にある考え方や熱気を感じるため参加させて頂きました。

 これら研究成果の詳細については、http://www.livingall.eu/reports-and-documents.phpから、報告書をダウンロードして読んで頂くのが良いと思います。明日以降、会議に参加し、私が改めて気付かされた点を紹介していきます。もぉ少し どうぞ お付き合い。

2009年1月21日水曜日

【学生スタッフ募集】飴ちゃんプロジェクト

○研究目的

 文献上に初めて「飴」が現れたのは、日本書紀の神武紀。そこに「神武天皇が水無しで飴を作った」という記述があり、その製法の再現を目指す。

 神武天皇は当時、敗戦後の巻きかえしを目指しており、兵士の士気を高めるため、「奇跡」を起こしてみせる必要があった。普通に飴を作るのでは奇跡にならないため、通常ではない方法、すなわち水無しで飴を作った。

 飴を作る際に用いられた器具は平瓮(ひらたいかわらけ)、原料は米と考えられる。通常、米から飴を作る際には、以下のポイントで水が必要になる。

・米を粥状にする(液化)

・コウジカビを育て、アミラーゼを作らせる

・アミラーゼを酵素として働かせる

・米のデンプンをアミラーゼで加水分解して糖にする(糖化)

水を加えずに以上を行うことが最大の問題点。

これをクリアし、水無しでの飴製造という「奇跡」を再現することが研究目的。


○研究計画

 大阪大学工学研究科教員のアドバイスの元に研究を計画。まず、アミラーゼを用いてどのような性状のものができるかを確認し、その後、アミラーゼを米麹に置き換え、時間をかけて糖化する方法を探る。

 アミラーゼを用いた実験の方法としては、できるだけ水分が多い米に、市販の耐熱性アミラーゼの粉末を薄くまぶし、最も糖化が進むと考えられる条件である100%近い湿度で6070度に保つ。

 近日中に、上記の耐熱性アミラーゼを用いた実験を行います。そのため、まずは実験の手続きがわかる人、特に生物学系のメンバーを急募します。

  ただし、この研究は生物学という一側面にとどまるものではありません。

 当時は現在のような実験機材などありませんから、自然にあるものを利用して飴を作っています。(例えば、高温を維持するためには、温泉などが利用されたのではないかと考えられます。)そのため、当時の現地の状況を知り、その時そこで飴を作ることが可能であったかどうかを、検証する必要があります。検証のためには、以下のような研究を行うことも必要になります。

・当時の状況を把握するための日本史学・考古学

・日本書紀の原典など、古文書に正確に当たるための古文学

・正確な場所を探るための地理学・地図学

・当時の気候を知るための気象学

・どの植物から米麹が採取されたかを探るための植物学

・実際に現地に赴き、現場の状況を探るためのフィールドワーク

つまり、さまざまな学問分野にまたがる研究になります。

そのため、さまざまな専門を持った、みなさん一人一人の力が必要になります。

 

 古代の奇跡の再現という「夢」が託されました。

 「奇跡の再現者」に、あなたもなりませんか?みなさんのご応募、お待ちしています。